世界一周インド編 その3

「アーグラへ行くならクルタパジャマが必要だ。」
ラウールは車の中でそう言った。
クルタパジャマとはインド人の衣装らしい。被りの長いシャツにダボダボズボン、そして頭にはターバンを巻くというインドでもよく見かけるスタイルだ。
「それを着ていけば、寺もボートも食も全てタダでいける。それがなければツーリストととしてめちゃくちゃボラれる事になるだろう。」
適当に流して聞いていたが、その話は何度もされた。
突然ラウールが車を止めた。
「ちょっとここで待っててくれ。」
そう言うとラウールは車を降りてどこかへ行ってしまった。
俺は一人クーラーのない車で暑いなか待っていた。
しばらくするとラウールが大きい瓶ビール二本持って戻ってきた。
昨日言っていた明日飲もうというのは店でというのでははなかったようだ。ビールを買ってまたしばらく走ると一軒のお店のようなところについた。
「ここは友達の家だ。みんな家族のような付き合いをしてる。」
そういうと車から降りて建物の中へ案内された。
中に入るとストールや服などが棚にびっしり並び、衣装を着たマネキンなどもいた。店の裏に案内されるとそこは小さな部屋になっていて、ベッドと一つの椅子があった。
すると店の子だろうか若い少年がやって来て、ラウールが話しかけた。
「ビールを飲みたいからグラスを持って来てくれ。」
そう言うと少年はグラスを取りに行った。
しばらくすると店のオーナーがやってきた。2人は友達だそうで、嬉しそうに挨拶を交わしていた。
するとまたあの話が始まった。
「アーグラへ行くならあれがいるな。」店主が言った。
するとラウールが俺にこう言った。
「こいつは俺の友達だから大丈夫だ。安くしてくれるよ。」
そういうことか。俺にここでその衣装を買わせようって話だ。
「せっかくだから見てみるといい。」
そう言うと店主は俺に店内を案内してきた。
丈の長いシャツにダボダボズボン、そして頭に巻くターバンを出して俺に聞いてきた。
「どれがいい?」
「いや、こんなものを買う余裕はない。第一こんなものを買ったら荷物になってしまう。」
「じゃぁどうするんだ?買わなかったらバラナシでもっと金がかかることになるんだぞ。アーグラは安いからまだいいが、バラナシで揃えようと思ったらかなりの金額になる。」
「だから要らないんだよ。バラナシでも買う気はない。」
「買わなかったらバラナシじゃどこにも行けないぞ?ガンジス川だって入場料がかかる。でもこれを着ていればタダで入れるんだ。お寺だってそうだ。」
困った事になった。こいつらの言ってる事は本当なのだろうか。しかし確かめる術は俺にはなかった。インドについてもう少し調べておくべきだった。俺は無知過ぎた。
「最悪の場合、、、どこも見れなくてもいい。そんなに金がかかるならガンジスを外から見るだけで十分だ。」
少し困惑したような表情を見せていた。するとそこにラウールがやってきた。
「どうしたマイフレンド。」
マイフレンドとは俺のことだ。
「こんなものを買っている余裕はない。俺が金を持っていないのは知っているだろう?」
「でも買わなかったらバラナシは楽しめないぞ。バラナシはどこに行くにも金がかかる。その格好ではぼったくられておしまいだ。」
もはや何が本当なのかわからなかった。1時間ぐらいこんな話をしていただろうか、その間もビールは進んでいたためか、俺はだんだんもう買ってしまおうかという気になりつつあった。
「これでいくらだ?」
「ストールはカシミアのものがいいなら3点セットで3200ルピーだ。」
「無理だ。そんなに出せない。」
シャツをこっちの安い無地のものに変えれば2500ルピーにしてやる。
それでも高い。さらに粘った。
「これ以上は無理だ。これでもかなり安くしているんだぞ。」
「わかった。2000ルピーにしてくれ。」
「オーケーラストプライス!2400!」
「いやダメだ。高い。」
「仕方ない。2300で手を打とう。」
納得はいかなかったがこれ以上は無理だった。
俺は結局買ってしまった。寄りによって提案されたカシミアのストールが俺がズバで欲しかった綺麗なサックスブルーだった事が購入に繋がってしまった大きな範囲んであろう。
買い物が終わると最後はラウールの出番だ。
ラウールのお友達は俺に言った。
「彼(ラウール)はすごくいいやつだ。お前もそう思うだろ?」
「あぁ。」
「インドにはチップの制度がある。最後に別れる時はあいつにチップを渡してやるといい。お互いハッピーだ。」
そうきたか。まぁ100ルピー程度払っておけばいいだろう。確かにラウールはいいやつだったし。俺はそう考えていた。
するとラウールが車から一冊のノートを持って来て俺に見せて来た。
どうやらラウールが実際に案内したお客が最後にラウールに残していったメッセージらしい。
日本人が書いたものも多く、皆感謝しているようだった。
しかしラウールはとんでもないことを言い始めた。
このお客は俺にチップで4000ルピーくれた。こっちのお客は9000だ。
よく見ると一客毎に払ったチップの金額が記載されていた。しかもどれもかなり高額だ。
そしてラウールが続けた。お前は俺にいくらチップをくれる?
冗談じゃない。何がお互いハッピーだ。高いツアー代を払い、頼んでいない石のツアーに連れて行かれ買わされそうになり、結局不要な服まで買わされたあげく高額なチップの要求と来た。ここまでくると怒りは頂点に達しかけていた。
「何を言ってるんだ。もうそんな金ありはしない。俺はすでに25000ルピー払ってるんだぞ。そんなものは会社からもらえ。」
そして俺は黙り込んだ。向こうも空気が気まずくなり一先ずその話はして来なくなったがこっちはもはや楽しめる気分ではなかった。
「ハッピー?」
そう聞いて来るので、もちろん、ノーハッピーと答えた。
「もういい。駅に連れていってくれ。」
俺がそう言うと、まだビールが残っているじゃないかというので、グラスに入ったビールを一気に飲み干し店を出た。
駅に向かう途中チャイを飲もうとラウールが車を止めたが俺は飲まずに車で待っていた。
そして駅に着くと最後にまたチップの話をしてきたので俺は500ルピーを渡して言った。
「これが俺の払えるマックスだ。これ以上は払えない。」
しかしラウールは引き下がらなかった。
「ノー2000ルピーくれ。会社は俺にお金なんて払わない。」
そして車の中で俺はキレた。
「ノー!金はない。これ以上払う気もない。そんなもん知るか。チップの額は自分で決める。お前に金額を決められる筋合いはない。」
こっちも筋が通っていないことを言ってるのはよくわかっていた。
だが本当にこれ以上は払いたくなかった。ここは押し通すしかない。そう決めていた。
大きな声で言った事でラウールも諦めた。そして車を降り最後はグッバイマイフレンドと言って俺を抱きしめてきた。
この言い合いからのこのハグはなんなんだろうか。こいつは今どういう心情をしているのだろうか。全く、インド人といいネパール人というのは何を考えているのかわからないものだ。
そんなインド人たちへの怒りを鎮めてくれるのはあったかいチャイだけだ。
H.N.T.

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